年次有給休暇は会社で働く人の権利です。
事業主と話をする際、驚かされるのが「パートやアルバイトは有給休暇は無いでしょ?」の一言。
これは出来立ての会社ではなく、地元で古くから続くそこそこの規模の会社の社長さんの言葉です。義務化の流れが出ている現況において、未だこのような考えが残っています。
まだまだ認識の甘い有給休暇(年次有給休暇)を解説していきます。
年次有給休暇の趣旨
年次有給休暇(以下、有給休暇)は、心身のリフレッシュを目的として作られた制度です。
取得する時季(時期ではありません)を指定し、身体を休ませて英気を養うためのものです。
「時季」という言葉の通り季節の意味を含んでおり、本来はまとまった休暇(海外で言うバカンス)を意図していましたが、法制化の段階で当時の日本の情勢を踏まえて分割的な取得を意識した形となり、今日に至ります。
年次有給休暇の付与要件
正社員はもちろん、パートやアルバイトも有給休暇が取れる
有給休暇は労働基準法(以下、労基法)第39条に規定されています。労基法は労働者を保護する法律なので、正社員(フルタイム)・パート・アルバイトの区別無く適用されます。
したがって、年次有給休暇は付与要件を満たせば、正社員に限らずパート・アルバイト・契約社員(一般的には有期契約社員)・派遣社員にも与えられるものです。
条文はこちらから(労働基準法)。
付与要件
有給休暇の付与要件は2つあります(労基法第39条第1項)。
- 雇い入れの日から6か月間、継続して勤務していること(継続勤務要件)
- 上記の間、全労働日の8割以上を出勤していること(出勤率要件)
例えば、入社日が平成29年9月1日のAさんは、6ヵ月経過後の平成30年3月1日に全労働日の8割を出勤していれば法律上当然に有給休暇が付与されます。
法律上当然に付与されるわけですから、会社の社長が「うちは有給休暇は無い」と言っても、有給休暇は労働者の権利として生じています。
その会社が個人経営であろうが法人であろうが、人数が多かろうが少なかろうが関係ありません。
なお、入社日から6カ月継続勤務後、今度はそこから1年毎に有給休暇が付与されていきます(労基法第39条第2項)。
ところで、全労働日って何?
ここで出てくる全労働日とは何を指すのでしょう。
判例(最高裁判所の判決)では、「労働契約上、労働の義務を負っている日」(エス・ウント・エー事件・最判平4・2・18)としています。
つまり、労働契約を結んだ時や就業規則(会社のルールブック)で決めた所定労働日ということです。
もう少し分かり易く言うと、1年の暦日数から予め定められた休日を差し引いたものが全労働日です。
では、出勤日は?
先ず、シンプルに会社に出勤した日が出勤日です。
これだけで済むなら悩むことはないのですが、ここで湧いてくる疑問があります。
- 有給休暇を取ったら欠勤扱い?
- 業務中にケガをして休んだらどうなる?
- 産前産後休業や育児休業中は?etc
労基法や通達(行政機関での法律の考え方・取り扱い方を示したもの)では、それらを次のように取扱いを決めています(一例です)。
有給休暇を取得 | 出勤扱い(昭22・9・13発基17) |
業務上のケガや疾病による欠勤 | 出勤扱い(労基法39条8項) |
産前産後休業・育児休業・介護休業 | 出勤扱い(同上) |
生理休暇 | 欠勤扱い(昭23・7・31基収2675) |
なお、遅刻や早退をした場合、会社に出て働いたことには変わりないので出勤として考えます。
8割の出勤率の計算
ここで先程のAさんの登場です。
所定労働日が250日だとして、出勤日数140日、産前産後休業98日、有給休暇2日、欠勤10日の場合はどうなるでしょうか。
上記で見た出勤の取り扱い方を念頭に計算すると
以上より8割以上なので、出勤率要件を満たしていることが分かります。
付与日数
付与要件を満たすと、何日の有給休暇が得られるのでしょうか。
これは働き方によって日数が変わってきます。
一般的な労働者(いわゆるフルタイム)の場合
一般的な労働者(フルタイム、いわゆる正社員等)の場合は、付与日数は次の通りです。
継続勤務年数 | 付与日数 |
6ヵ月 | 10日 |
1年6ヵ月 | 11日 |
2年6ヵ月 | 12日 |
3年6ヵ月 | 14日 |
4年6ヵ月 | 16日 |
5年6ヵ月 | 18日 |
6年6ヵ月 | 20日 |
パートタイマーやアルバイトなど働く時間が短い場合
週の所定労働日数が5日未満かつ週の所定労働時間が30時間未満の人(いわゆるパートタイマーなど)は、フルタイムで働くような人と比べて、付与される日数が異なります。
労働日数に比例して付与日数が増減しているので、「比例付与」と呼ばれています。(労基法施行規則第24条の3)
継続勤務年数 | |||||||||
週所定労働日数 | 年間所定労働日数 | 6ヵ月 | 1年6ヵ月 | 2年6ヵ月 | 3年6ヵ月 | 4年6ヵ月 | 5年6ヵ月 | 6年6ヵ月 | |
付与日数 | 4日 | 169~216日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
3日 | 121~168日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 | |
2日 | 73~120日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 | |
1日 | 48~72日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
付与日
付与日(正確には基準日と呼ばれています)とは、労働者に有給休暇の権利が発生する日です。
最初の話のおさらいですが、29年9月1日入社のAさんは、6カ月経過後である30年3月1日が付与日となります。その後は、1年毎に繰り返し訪れます。Aさんは、平成31年3月1日に2度目の有給休暇が与えられます(労基法第39条第1、2項)。
有給休暇の有効期間
有給休暇の有効期間は2年間です(労基法115条)。
29年9月1日入社のAさんは、1年6カ月経過日である31年3月1日に11日分の有給休暇を新たに取得しましたが、30年3月1日に取得した10日分の有給休暇を丸々持っているとします。
この時、その10日分の有給休暇は32年3月1日前までに使わないと消滅してしまいます。同じように、新たに11日分の有給休暇は33年3月1日前までに使わないと無くなります。
有給休暇の日数を管理してみよう
給与明細などで、保有している有給休暇の残日数が確認できますが、全ての会社で実施されているわけではありません。
マイクロソフトが作成したテンプレート・書式を使って管理することで、どのくらい有給休暇日数が残っているか一目で分かるようになります。
有給休暇の使い方
有給休暇を取りたいことを伝える
有給休暇の取り方は簡単です。有給を使いたい旨を会社に伝えることです。これを『時季指定権』と呼びます。
会社毎に若干差はありますが、基本的に会社が定める書式やフォーマットに沿って申請するのが一般的です。
そういった書類が無い会社では口頭で伝えるという方法がありますが、後々もめないためにも、取得したい日付などを一筆したためて届け出る方が良いかもしれません。
取得理由は自由
有給休暇の取得理由について、労基法は関知しておらず、自由利用が原則です。
ただ、事業主側が『時季変更権』(取得日を変更する権利)を使うか否かを判断するために、理由を尋ねる場合があります(法律では禁止されていません)。
その時は、素直に取得する理由を伝えましょう。それこそカープの試合観戦のためでも構いません。もっとも、無難な理由は「私用のため」でしょうか。
ちなみにウチの家族は「旅行のため」と幾度と無く出していました。
届出のタイミング
有給休暇を使いたい意志はどのタイミングで伝えれば良いでしょうか。
法律で特に定めはありませんが、事業主からの有給休暇取得日の変更権である『時季変更権』を考える時間との兼ね合いから、時間的な余裕を持って事前に届け出ることが必要だと考えられています。
会社から取得日の変更がある場合がある
有給休暇を取得したいと届け出た後に、会社から取得日を見送ってほしいと伝えられる事があります。
これを『時季変更権』と呼びます。有給休暇を取得すると事業の正常な運営が妨げられる場合に会社が行使する権利です(労基法第39条4項)。
ただし、何でもかんでも変更できる訳ではなく、事業の内容、規模、労働者の担当業務、業務の繁閑といった要素を総合して判断しなければならず、単なる慢性的な人員不足により変更することは出来ません。上記の理由だと、有給休暇が全く消化が出来なくなってしまいます。
規模の小さく余裕の無い会社では、有給休暇を取得させたくても難しいのが実情です。よって、人手が足りなくて有給休暇がなかなか取り辛い会社の場合は、上司や上長と掛け合って相談しながら取得する必要が出てくるかもしれません。
有給休暇中の賃金
有給休暇取得中の賃金は、就業規則や労働契約その他の定めにより、
- 平均賃金
- 所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
- 健康保険法の標準報酬日額(労使協定を締結した場合のみ)
上記の3つのいずれかによって支払われます。一般的に2番目のパターンが多いです。通常働いたものと同様に扱う方が給与計算をする上でも有り難いからです。
時給の人で、日によって労働時間が違う場合
通常は5時間の所定労働時間だけど、有給休暇を使った日がたまたま3時間の所定労働時間だった場合、給料はどうなるでしょうか。
この場合は、5時間では無く3時間で計算します。残念。
有給休暇がもし取れない時の対応
有給休暇の届出をしても、希望した日に取れないかもしれません。会社は事業の運営上、その日に限ってその人の担当する業務が欠かせず、代替要員の確保が出来ないといった場合は、会社が『時季変更権』を行使するためです。
しかし、時として時季変更権が使える理由が無く拒否してくる場合があります。その時の対応を考えてみましょう。
取れそうな日を相談する
上記の通り、『時季変更権』が使えるような条件や理由が無く、拒否された場合はどうでしょう。
その時は先ず上司や上長など就業規則などで定められた担当者に相談をしましょう。
どうしてもその日に有給休暇を取りたいのであれば、理由をしっかり伝えれば再検討をしてもらえる可能性があります。別の日でも構わない場合は別の日で取れないか相談します。
円満に話し合いで解決することが最良の道です。
公的な相談機関で解決策を探る
話し合っても理解が得られず、希望した日がいずれも拒否されるようなときは別に解決策を考えていきます。
先ずは公的な労働相談機関で相談する方法があります。こちらで助言を得て、改善の道を探ります。再び会社と相談し易くなる場合があります。
総合労働相談センター
各都道府県の労働局内や監督署内に総合労働相談センターが設置されています。専門の相談員が電話や面談で無料対応をしてくれます。
詳細や連絡先は総合労働相談コーナーで確認できます。
労働条件相談ほっとライン
専門知識を持つ相談員が、法令・裁判例などの説明や各関係機関の紹介などを行う電話相談です。
詳細は労働条件相談ほっとラインをご覧ください。
労働基準関係情報メール窓口
メールで送られた情報は、関係する労働基準監督署・都道府県労働局において、立入調査対象の選定に活用するなど、業務の参考に使用されます。
詳細は、労働基準関係情報メール窓口
監督署に相談する
助言や解決案を得て会社と相談しても改善されなければ、労働基準監督署(以下、監督署)に相談するのも手です。ここでも解決案が提示されたり、場合によっては監督署が実体を確認のため臨検監督(監督指導)が行わることがあります。
監督署の働きによって、労働環境が改善されることが期待できます。
もっとも、監督官は抱えてる業務に対して人員が不足しており、希望する対応がなされないかもしれません。出来る限りその事実や状況が分かる資料をまとめた上で直接監督官に相談すると事が進む可能性が高くなるでしょう。
ただし、それでも良くならない会社がある事は事実です。また、基本的には会社に相談者の名は伝えられませんが、規模の小さい会社では誰が相談したかが推測されてしまうおそれもあります。
このように労働環境が改善されない、又は、悪化しているような状況であれば、より良い環境を求めて新しい職場を探すのがベストです。
新たな職場を探す
労働環境が芳しくない時は、新たな職場を探すのも1つの方法です。
転職サービス会社にて、専門の担当者と綿密に相談することによって、労働条件の良い職場を探しましょう。
契約している会社はお金を払って人材を求めています。無料のハローワークだけを使う会社とは本気度が違います。
あとがき
日本は有給休暇の取得率が低く、多くの人が有給休暇が取りたくても取れない状況が窺えます。そうした状況では、皆の意識の改善が第一に必要ですし、正しい知識を持って会社と相談していくことが解決の道です。大変かもしれませんが、円満に事を運んでいきましょう。
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